《かへで》、
かの男木《おとこぎ》も、その女木《めぎ》も
痩《や》せて骨だつ全身を
冬に晒《さら》してをののきぬ。

やがて小暗《をぐら》き夜《よる》は来《こ》ん、
しぐるる雲はここ過ぎて
白き涙を落すべし、
月はさびしく青ざめて
森の廃墟《はいきよ》を照《てら》さまし。

されど諸木《もろき》は死なじかし。
また若返る春のため
新しき芽と蕾《つぼみ》とを
老いざる枝に秘めながら、
されど諸木《もろき》は死なじかし。


    落葉

ほろほろと……また、かさこそと……
おち葉《ば》……おち葉《ば》……夜《よ》もすがら……
庇《ひさし》をすべり……戸に縋《すが》り……
土に頽《くづ》るる音《おと》聞けば……
脆《もろ》き廃物……薄き滓《かす》……
錆《さ》びし鍋銭《なべせん》……焼けし金箔《はく》……
渋色《しぶいろ》の反古《ほご》……檀《だん》の灰……
さては女のさだ過ぎて
歎く雑歌《ざふか》の断章《フラグマン》……
うら悲《がな》しくも行毎《ぎやうごと》に
「死」の韻を押す断章《フラグマン》……


    冬の朝

空は紫
その下《もと》に真黒《まくろ》なる
一列の冬の並木……
かなたには青物の畑《はた》海の如《ごと》く、
午前の日、霜に光れり。
われらが前を過ぎ去りし
農夫とその荷車とは
畑中《はたなか》の路《みち》の涯《はて》に
今、脂色《やにいろ》の点となりぬ。
物をな云《い》ひそ、君よ、
味《あぢは》ひたまへ、この刹那《せつな》、
二人《ふたり》を浸《ひた》す神妙の
黙《もく》の趣《おもむき》……


    腐果

白がちのコバルトの
うす寒き師走《しはす》の夜《よ》、
書斎の隅なる
セエヴルの鉢より
幾つかのくわりんの果《み》は身動《みじろ》げり。

あはれ百合《ゆり》よりも甘し、
鈴蘭《すゞらん》よりも清し、
あはれ白き羽二重の如《ごと》く軽《かる》し、
黄金《きん》の針の如《ごと》く痛し、
熟したるくわりんの果《み》のかをり。

くわりんの果《み》に迫るは
つれなき風、からき夜寒《よさむ》、
あざ笑ふ電灯のひかり、
いづこぞや、かの四月の太陽は、
かの七月の露は。

されど、今、くわりんの果《み》には
苦痛と自負と入りまじり、
空《むな》しく腐らじとする
その心《しん》の堪《こら》へ力《ぢから》は
黄なる蛋白石《オパアル》[#「蛋白石」は底本
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