れ。
許せ、我が斯《か》かる気儘《きまゝ》を。


    晩秋の草

野の秋更けて、露霜《つゆしも》に
打たるものの哀れさよ。
いよいよ赤む蓼《たで》の茎、
黒き実まじるコスモスの花、
さてはまた雑草のうら枯《か》れて
斑《まだら》を作る黄と緑。


    書斎

唯《た》だ一事《ひとこと》の知りたさに
彼《か》れを読み、其《そ》れを読み、
われ知らず夜《よ》を更かし、
取り散らす数数《かずかず》の書の
座を繞《めぐ》る古き巻巻《まきまき》。
客人《まらうど》[#ルビの「まらうど」は底本では「まろうど」]よ、これを見たまへ、
秋の野の臥《ふ》す猪《ゐ》の床《とこ》の
萩《はぎ》の花とも。


    我友

ともに歌へば、歌へば、
よろこび身にぞ余る。
賢きも智を忘れ、
富みたるも財を忘れ、
貧しき我等も労を忘れて、
愛と美と涙の中に
和楽《わらく》する一味《いちみ》の人。

歌は長きも好《よ》し、
悠揚《いうやう》として朗《ほがら》かなるは
天に似よ、海に似よ。
短きは更に好し、
ちらとの微笑《びせう》、端的の叫び。
とにかくに楽し、
ともに歌へば、歌へば。


    恋

わが恋を人問ひ給《たま》ふ。
わが恋を如何《いか》に答へん、
譬《たと》ふれば小《ちさ》き塔なり、
礎《いしずゑ》に二人《ふたり》の命、
真柱《まばしら》に愛を立てつつ、
層《そう》ごとに学と芸術、
汗と血を塗りて固めぬ。
塔は是《こ》れ無極《むきよく》の塔、
更に積み、更に重ねて、
世の風と雨に当らん。
猶《なほ》卑《ひく》し、今立つ所、
猶《なほ》狭し、今見る所、
天《あま》つ日も多くは射《さ》さず、
寒きこと二月の如《ごと》し。
頼めるは、微《かすか》なれども
唯《た》だ一つ内《うち》なる光。


    己《おの》が路《みち》

わが行《ゆ》く路《みち》は常日頃《つねひごろ》
三人《みたり》四人《よたり》とつれだちぬ、
また時として唯《た》だ一人《ひとり》。

一人《ひとり》行《ゆ》く日も華やかに、
三人《みたり》四人《よたり》と行《ゆ》くときは
更にこころの楽《たのし》めり。

我等は選《え》りぬ、己《おの》が路《みち》、
一《ひと》すぢなれど己《おの》が路《みち》、
けはしけれども己《おの》が路《みち》。


    また人に

病みぬる人は思ふこと
身の病《やまひ》をば先《
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