、こつちり[#「こつちり」に傍点]、
鍬は泣きだす、
石は火出だす。
花を植ゑるか、
菜の種蒔くか、
なぜに打つかと
健之介に問へば、
「蒔くか、植ゑるか、
それはまだ[#「まだ」に傍点]決めぬ。
僕は力が
出したいばかり。」
山房の雨
六甲苦楽園の雲華庵に宿りて
津の国の武庫の山辺の
高原《たかはら》の小松の上を、
細々と、つつましやかに、
歩みくる村雨のおと。
高原の庵《いほ》に目ざめて、
猶しばし枕しながら、
そを聴けば静かに楽し、
初夏《はつなつ》のあかつきの雨。
おそらくは、青き衣《ころも》に、
水晶の靴を穿きつつ、
打むれて山に遊べる
谷の精、それか、あらぬか。
戸を開けて打見下ろせば、
しら雲の裳《もすそ》を曳きながら、
をちかたに遠ざかりゆく
あかつきの山の村雨。
〔無題〕
栓をひねると
水道の水が跳ねて出る。
何処の流しへでも、
誰れの手へでも、
それは便利な機械的文化です。
併し、わたしは倦きました、
わたしは掘りたい、
自分の力で、
深い、深い、人間性の井戸が一つ。
〔無題〕
すき通る緑、
泣いた女の瞼のやうな薄桃色
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