わたしは早く騒しい中六番町の宅へ帰りたい。
婦人問題を論ずる男の方の中に、女の体質を初から弱いものだと見て居る人のあるのは可笑《をか》しい。さう云ふ人に問ひたいのは、男の体質はお産ほどの苦痛に堪へられるか。わたしは今度で六度産をして八人の児を挙げ、七人の新しい人間を世界に殖した。男は是丈の苦痛が屡※[#二の字点、1−2−22]せられるか。少くともわたしが一週間以上一睡もしなかつた程度の辛抱が一般の男に出来るでせうか。
婦人の体質がふくよかに美しく柔かであると云ふ事は出来る。其れを見て弱く脆いと概論するのは軽卒で無いでせうか。更に其概論を土台にして男子に従属すべき者だと断ずるのは、論ずる人の不名誉ではありませんか。
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男をば罵る。彼等子を生まず命を賭けず暇あるかな。
[#ここで字下げ終わり]
わたしは野蛮の遺風である武士道は嫌ですけれど、命がけで新しい人間の増殖に尽す婦道は永久に光輝があつて、かの七八百年の間武門の暴力の根柢となつて皇室と国民とを苦めた野蛮道などとは反対に、真に人類の幸福は此婦道から生じると思ふのです。是は石婦《うまずめ》の空言では無い、
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