て。』
『いらなければ早くさう云つてお返しよ。』
『ぢやあかへしますわ。』
 ブランシユは男から言ひ訳を聞いてうなづきながら
『こんなことをよく頼みに来るので私は困らせられるのですよ。』
 と云つて、帽を提げておかみさんは出て行つた。
『晩には巴屋《ともゑや》へでも行かうか。日本酒がもう来て居るかも知れないね。』
 カンキナのコツプを持ちながら女を見て男が云つた。
『さうね。』
 女は唯さう云つただけである。まだ今の帽子が目に残つて去らないやうである。
『奥さん帽を買つておおきになれやあいいのに。』
 と河合が云つた。



底本:「中央公論」中央公論社
   1913(大正2)年3月号
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字を新字にあらためました。
※底本には、「ルバン」と「ロバン」がともに見られます。
入力:武田秀男
校正:門田裕志
2003年2月16日作成
2003年5月18日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校
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