エ》から追ひ帰しても仕方のないわけだね。』
『河合さんは綺麗な人を前に置いて見るだけでいいんですわね。』
と女が云つた。
『やむをえずですよ。』
『さうだとも。』
と男が云ふ。
『おい、カンキナでも河合君にお上げよ。そしておまへもそんな所に居ずと椅子を持つておいでよ。』
男に云はれて
『え、え。』
と女は足を床に附けて立たうとした。戸口に人の来たけはひを聞いて、男は
『どなた。』
と云つた。愛嬌を目に見せたブランシユが中を覗いて、客のあるのを見て男を小手招ぎして外へ呼び出した。女は机を河合の方へ少し寄せて、出して来たカンキナの瓶とコツプを置いた。
『おかみさんはいくつですか。』
『さあ、旦那様より二つ上だとか云つてましたよ。』
黒味を帯びたカンキナが注ぎ余つて机掛の上に血のやうに零れた。
『あれやあ亭主ぢやない、男めかけだ。』
『そんなことはないんですよ。』
『あんまり男が可愛さうだもの。』
酒を半飲んだコツプを持つた儘河合は笑つて居る。
『おかみさんは二十貫位あるでせうね。』
『そんなこと、背が低いし、それに唯ぶくぶくして居るだけですもの。』
男が入つて来る後からブラ
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