ところを見せぬようにしてほしいと思召すのである。
「あの人をだれよりも御ひいきになさいまして、部屋のほうへも寄ってお行きになることがよくあるようでございます。しんみりとお話をしておいでになることもございまして夜がふけてお帰りになることはありましても恋愛関係と申すようなことはなさそうに思われます。あの人兵部卿の宮様の御性情には反感を持っておりまして、お返辞すらよくいたさないようでございますのはもったいないことでございます」
と言い、大納言の君が笑うと、中宮もお笑いになって、
「あの宮の多情な本質が直感できるのだからいいね。どうしてあの方の悪癖を直させたらいいだろう、恥ずかしいと私は思う。だれも皆そう思っているだろうね」
こうお語りになった。
「妙な話を私は聞いたのでございます。あの大将さんのお亡《なく》しになりました人は兵部卿の宮様の二条の院の奥様のお妹さんだったそうでございます。前常陸守の妻はその方の叔母《おば》であるとも、母であるとも申しますのはどういう理由《わけ》であるのかよく存じません。その大将の愛人の所へそっと兵部卿の宮様も通ってお行きになったということでございまして、大将さんがそれをお聞きになりましたのか、にわかに宇治から京へ迎えようとなすって、監視の人などをきびしくお付けになりましたころに、宮様はまたおいでになったのでございますが、家の中へおはいりになることができませんで、危険なことでございますが、お馬のままで外に立っておいでになり、それなり帰っておしまいになったということでございまして、女も宮様をお慕いしていたのでしょうか、にわかに行くえがわからなくなりましたのを、川へ身を投げたのであろうと、乳母《うば》というような者が泣き騒いで言っていたそうでございます」
大納言の君はこんな話を申し上げた。中宮がお驚きになったことは言うまでもない。
「だれがまあそんな噂話《うわさばなし》をしていたの、ほんとうにかわいそうな話ではないか。そんな出来事はすぐ噂になるものだのに、そうでもなし、また大将もそんなふうには話さずに、人生の悲哀を強調して話すだけで、また宇治の宮さんの一族が皆短命で死ぬのは悲しいことだとは言っていたけれども」
「ほんとうでございますか、どうでございますか、しもざまの者は確かでないこともほんとうらしく話にいたすものですが、その宇治の山荘におりま
前へ
次へ
全40ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング