せておしまいになり、命もなくしたのではないかと思う。隠さずに真実を言ってくれ。自分に少しの欺瞞《ぎまん》もないことを言ってほしい」
 と薫《かおる》の言うのを聞いて、確かなことを皆知っておしまいになったようである、この方もお気の毒であるし、故人もおかわいそうであると右近は思った。
「情けないことをお聞きあそばしたものでございますね。右近がおそばにおらぬ時といってはございませんでしたのに」
 と言い、右近はしばらく黙っていたが、
「そんなこともお聞きになっていらっしゃいましょうが、お姉様の二条の院の奥様の所へ行っておいでになりました時、思いがけずそのお部屋《へや》へ宮様がお見えになったことがあるのでございますが、失礼なことも皆でいろいろ申し上げましてお立ち去りを願ったのでございました。実はそれを恐ろしいことに思召して、あの三条の仮屋《かりや》のような所にしばらくお住いになったのでございます。それからは決してお在処《ありか》をお知らせしますまいと警戒をいたしておりましたのに、どういたしましたことか今年《ことし》の二月ごろからおたよりがまいるようになりました。お手紙はたびたびまいったのですが、丁寧にお頼みになることもございませんでしたのを、もったいないことで、そうしてお置きになりますことはかえって悪い結果を生みますと私などがお勧めいたしましたので、一度か二度はお返事をあそばしたことがあったようでございます。それ以外のことは何もございません」
 こう言った。そう言うべきことである、しいてそれ以上を聞くのもこの人がかわいそうであると薫は思い、じっとひと所をながめながら、宮をお愛ししたのであろうが、自分をもおろそかには思えなかったらしい、迷い迷って死におもむいたのであろう、自分がこうした寂しい場所へさえ置かなんだならば、世の中の波にもまれることはあっても、自殺までもすることはなかったであろうと思うと、この川のあったがために悲しい結末を見ることになったのであると、宇治の流れを憎く思う薫であった。恋しい人の縁で荒い山路《やまみち》を往復《ゆきかえり》することを何とも思わなかった薫は、この時になって宇治という名を聞くことさえいやであるように思った。宮の夫人があの姫君のことを初めに戯れて人型《ひとがた》と名づけて言ったのも、川へ流れてゆく前兆を作ったものであったかと思うと、何にもせよ自
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