て歎息をした。乳母は内舎人の話を少し聞いていて、
「よく御注意をしてくださいましたわね。盗人《ぬすっと》などの多い土地だのに宿直の人だって初めほど頼もしい人は来ていなかったのですからね、代役だと言って下っぱの者をよこすようになって、その人たちというものは夜まわりをすらしないのですから」
と喜んでいた。浮舟はこうして寂しい運命のきわまっていくことを感じている時、宮から決心ができたはずであるとお言いになり、「君に逢はんその日はいつぞ松の木の苔《こけ》の乱れてものをこそ思へ」というようなことばかり書いておいでになった。どちらへ行っても残る一人に障《さわ》りのないことは望めない、自分の命だけを捨てるのが穏やかな解決法であろう、昔は恋を寄せてくる二人の男の優劣のなさに思い迷っただけでも身を投げた人もあったのである、生きておれば必ず情けないことにあわねばならぬ自分の命などは惜しくもない、母もしばらくは歎くであろうが、おおぜいの子の世話をすることで自然に自分の死のことは忘れてしまうであろう、生きていて身をあやまり、嘲笑《ちょうしょう》を浴びる人になってしまうのは、母のためには自分の死んだよりも苦し
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