》しまして、前の男があとの男を殺してしまったのでございます。そして自身も姉を捨ててしまいました。お館《やかた》でもよい侍を一人なくしておしまいになったのでございます。殺したほうもよい郎党だったのですがそんな過失をしてしまった男は使わないとお国から逐《お》われてしまいました。皆女がよろしくない二心を持ったから起こったことだとお言いになりましてお館の中にも置いていただけなくなりましたので、東国人になってしまいまして、まま[#「まま」に傍点]は今でも恋しがって泣いております。罪の深いことだとこんなことも思われるのでございますよ。悪い話のついでに申すようでございますが、貴族の方でも低い身分の者でも二つに愛を分けて煩悶《はんもん》をするということは悪いことでございますよ。貴族は命のやり取りなどはなさいませんでも、死ぬにもまさった名誉の損というものがあるのですからね。かえって辛《つろ》うございます。ともかくもどちらかお一人にきめておしまいなさいましよ、宮様も殿様以上に誠意を持っておいでになるのでしたら、それでもよろしいではありませんか。さっぱりとお気持ちを清算しておしまいになりまして、あまり煩悶は
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