ろう、そしてどうして誘惑をお始めになったのであろう、あの田舎《いなか》の宇治に住ませてあれば、そうした危険には隔離されているもののように思い、安心していたのはなんたる自分の幼稚な考え方であったろう、それにしても互いに知らぬ人の愛人と恋愛の遊戯をすることも世間にはあるであろうが、自分と宮とは親友の間柄で、人が怪しむほどにも助けられ、お助けして恋の媒介をすら勤めた自分の愛人を誘惑などあそばされてよいわけはないと思うと不快でならなかった。西の対の夫人を非常に恋しく思いながら、ある線を越えて行かない自分はりっぱでないか、しかも親密にするのは宮家へはいってからの夫人としてではない、宮に対してやましい思いをお持ちするのがいやで、恋しい心を抑制しているのは愚かなことであったかも知れぬ、ずっとこのごろ宮は御病気のようで始終お見舞いの人々に取り巻かれておいでになりながら、どうして宇治へのお手紙は書かれたのであろう、またどうしてお通いになることができたのであろう、遠くはるかな恋の道ではないか、だれにも想像のつかぬ所へ行ってお泊まりになることがあり、所在を捜されておいでになる時があるという御評判も聞いた、罪
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