起でもない恰好《かっこう》をしてと思いまして、こちらへ出てまいってこまごまとしたお話を申し上げますのも御遠慮がされて引っ込んでいましたものの、京へ行っておしまいになれば、心細くなることでございましょう。でもね、こうしたお住まいをしていらっしゃるのは何だかたよりない気のしたものですが、私もうれしいことに違いございません。重々しいお身の上のある方がこんなにも御丁寧にしてお迎えになるのは、奥様のお一人と思召すお心がおありになるからだと私へお話のあったことがございます。将来御不安なことなどは決してございませんよ」
「まああとのことはわかりませんが、現在はまあこうした御親切をお見せくださるものですから、最初いろいろとお骨を折ってくださいましたあなたの御恩が思われます。宮の奥様はもったいないほどこの方を愛してあげてくださいましたのですが、あちらではめんどうが少し起こりかけましてね、ごやっかいにならせてお置きすることもできませんで、行きどころのないような孤独の方になっておいでになったので私は心配しておりましたがねえ」
 尼は笑って、
「あの宮様は騒がしいくらい御多情な方でね、利巧《りこう》な若い女房
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