を誘う力があった。宇治の橋姫を言っているではないかと、さっきから転寝《うたたね》をしておいでになった宮のお心は騒いだ。深く愛していないことはないらしい、橋姫の一人臥《ひとりね》の袖《そで》を自分だけの思いやるものとしていたが、同じ思いを運ぶ人もあるのかと身に沁《し》んでお思いになった。わびしいことである、これほどりっぱな男を持っている女が、自分のほうへ多く好意をもってくれようとは信じられないと、ねたましくもまた思召《おぼしめ》された。
雪が高く積もったこの翌朝、御前へ創作の詩を御持参になる宮のお姿は、今が美しい真盛りの方と見えた。右大将も同じ年ごろであった。二つ三つ上ではないかと思われるところにまた完《まった》いような美があって、わざと作り出した若い貴人の手本かとも思われる。帝《みかど》の御婿としてこれほどふさわしい人はないと世人も大将のことを言っていた。学才も高く、政治家としての素養に欠けたところもない人であった。
各人の詩がどれも講じられ参会者は皆退散した。兵部卿の宮の詩が、ことに傑作であったと人々の賞讃《しょうさん》するのも宮にはうれしいことともお思われにならない。詩作などが
前へ
次へ
全101ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング