あったから、見るたびに昔のことが今のような気がして、この姫君ほどの人でない女にもせよ、いっしょにおれば憐《あわれ》みはわいてくるであろうと思われるのに、まして恋しい人に似たところが多く、かわりとして見てもそう格段な価値の相違もない人が、ようやく思想も成熟してき、都なれていく様子の美しさも時とともに加わる人であるからと薫は満足感に似たものを覚えて相手を見ていたが、女はいろいろな煩悶のために、ともすれば涙のこぼれる様子であるのを大将はなだめかねていた。
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「宇治橋の長き契りは朽ちせじをあやぶむ方に心騒ぐな
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そのうち私の愛を理解できますよ」
と言った。
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絶え間のみ世には危ふき宇治橋を朽ちせぬものとなほたのめとや
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と女は言う。
今まで来て逢っていた時よりも別れて行くのがつらく、少しの時間でも多くそばにいたい気のする薫であったが、世間はいろいろな批評をしたがるものであるから、今まで事もなく隠すことのできた愛人との間のことが、今になって暴露することになってはまずい、よい時節に公表もでき
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