の足りなかったことは反省せずに、あなたが恨まれることになりはしないかということまで心配されますよ。夢にも人に知られないようにして、ここでない所へあなたをつれて行ってしまおうと私は考えていますよ」
とお言いになった。
次の日もとどまっておいでになることはできなかったから、帰ろうとあそばすのであったが、魂は恋人の袖《そで》の中にとどめてお置きになるように見えた。せめて明るくならぬうちにとお供の人たちは咳《せき》払いをしてお促しするのであった。
妻戸の所へ女をいっしょにつれておいでになって、さてそこから別れてお行きになることがおできにならない。
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世に知らず惑ふべきかな先に立つ涙も道をかきくらしつつ
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女も限りなく別れを悲しんだ。
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涙をもほどなき袖《そで》にせきかねていかに別れをとどむべき身ぞ
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風の音も荒くなっていた霜の深い暁に、衣服さえも冷やかな触感を与えるとお覚えになり、宮は馬へお乗りになったものの、何度となく引き返したくおなりになったのを、お供の人がしいて冷酷に心を持ちお
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