えばいいではないか。秘密はだれのためにも護《まも》らなければならないと考えてくれ。それよりほかのことは皆自分にできないことなのだよ」
こうお言いになり。この相手から覚えさせられる愛着の強さをみずからお悟りになる宮は、非難も正義も皆お忘れになった。
右近がお帰りを促している人らのほうへ出て行き、宮はこうこうお言いになると言い、
「そんなことはおよろしくないことですということをあなたがたからまた申し上げてみてください。こうした無理なことを最初仰せになりました時に、あなたがたがそれをお諫《いさ》めにならなかったとはどうしたことでしょう。愚かしくどうしてお言葉どおりに御案内しておいでになったのでしょう。途中でもここでも失礼なことを申し上げる人間が出て来ましたらどんなことになったでしょう」
とたしなめた。内記は予想したとおりに事態がめんどうになったと思いながら立っていた。
「時方とおっしゃるのはどなたですか」
「私です」
大内記時方は笑いながら、
「ひどいお叱《しか》りですから恐ろしくて、私でないと言って逃げ出そうかと思いました。それは冗談《じょうだん》ですが、まじめに申し上げれば、あま
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