も心を分かずぞあらまし
[#ここで字下げ終わり]

 そのうち自身でこの申しわけをさせていただきましょう」
 と返事を伝えさせた。八の宮のことを聞いて知ったらしいと思うと、いっそうその娘が大事に思われ、どうして他の子などといっしょに扱われようと考えられる母であった。理由もなくこの時に薫《かおる》の面影が目に見えてきて、心の惹《ひ》かれる思いがした。同じように美貌《びぼう》でおありになるとは宮を思ったが、こうした憧憬《どうけい》を持って思うことはできない。娘を侮って無法に私室へ闖入《ちんにゅう》あそばされた方であると思うとくちおしいのである。大将は娘に興味を持っておいでになりながら直接に恋の手紙を送ろうともせず、表面はあくまで素知らぬ顔で通しているのも階級的な差別に因《もと》づくと思われるのはつらいがりっぱな態度であるなどと、母親は薫にばかり好感の持たれる自分を認め、若い姫君はまして二人の貴人を比較して見て大将に心の傾くことであろうと思われる。姫君の婿にしようなどと少将のような無価値な男を思ったことが自分にあったのが恥ずかしいなどと母は姫君についての物思いばかりをし続け、ああもして、こう
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