昨夜のできごとを知っている女房たちは、
「実際はどんなことだったのでしょう、おかわいらしいお顔をしていらっしゃるあの方を、奥様はあんなに大事にしておいでになっても、もう泥土《でいど》に落ちた花ではありませんか、気の毒な」
と一人が言うのを、右近は、
「そこまでは進まなかったのでしょう。あの乳母《ばあや》が私をつかまえて、放すものかというようにもしてこぼしていた話にも、そこまでも行った御|冗談《じょうだん》だったとは言ってませんでしたよ。宮様も近づきながら恋を成り立たせえなかったような意味の詩を口ずさんでおいでになりましたもの。けれどもそれはわざとそうお見せになろうとするためか私は知りませんよ」
やや釈明的にも言い、二人は姫君に同情した。
乳母《めのと》は車の拝借を申し出て常陸《ひたち》様の所へ帰って行った。常陸夫人に昨夜のことを報告するとはっと驚いたふうが見えた。女房たちもけしからぬことだと言いもし、思いもするであろう、夫人はまたどんなふうに思うことか、嫉妬《しっと》の憎しみというものは貴婦人も何もいっしょなのであるからと、自身の性情から一大事のように思い、じっとはしておられ
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