、ひそかに祈祷などをさせていた。この人の婚約者の女二《にょに》の宮《みや》の裳着《もぎ》の式が目前のことになり、世間はその日の盛んな儀礼の用意に騒いでいる時であって、すべてを帝《みかど》御自身が責任者であるようにお世話をあそばし、これでは後援する外戚《がいせき》のないほうがかえって幸福が大きいとも見られ、亡《な》き母君の藤壺《ふじつぼ》の女御《にょご》が姫宮のために用意してあった数々の調度の上に、宮中の作物所《つくりものどころ》とか、地方長官などとかへ御下命になって作製おさせになったものが無数にでき上がってい、その式の済んだあとで通い始めるようにとの御内意が薫へ伝達されている時であったから、婿方でも平常と違う緊張をしているはずであるが、なおいままでどおりにそちらのことはどうでもいいと思われ、中の君の産の重いことばかりを哀れに思って歎息を続ける薫であった。
 二月の朔日《ついたち》に直物《なおしもの》といって、一月の除目《じもく》の時にし残された官吏の昇任更任の行なわれる際に、薫は権《ごん》大納言になり、右大将を兼任することになった。今まで左大将を兼ねていた右大臣が軍職のほうだけを辞し、
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