てい、大臣が御所から退出した帰り路《みち》に二条の院へ出て来た。
「たいそうなふうをして何しにおいでになったのかと言いたい」
 などとお言いになり、宮は不機嫌《ふきげん》になっておいでになったが、客殿のほうへ行って御面会になった。
「何かの機会のない限りはこの院へ上がることがなくなっております私には目に見るものすべてが身に沁《し》んでなりません」
 とも言い、六条院のお話などをしばらくしていたあとで、大臣は宮をお誘い出して行くのであった。子息たちその他の高級役人、殿上役人なども多く引き連れている勢力の偉大さを見て、比較にもならぬ世間的に無力な身の上を中の君は思ってめいった気持ちになっていた。女房らはのぞきながら、
「ほんとうにおきれいな大臣様、あんなにごりっぱな御子息様たちで、皆若盛りでお美しいと申してよい方たちが、だれもお父様に及ぶ方はないじゃありませんか、なんという美男でいらっしゃるのでしょう」
 と中には言う者もあった。また、
「あんなおおぎょうなふうをなすって、わざわざお迎えなどにおいでになるなんてくちおしい。世の中って楽なものではありませんね」
 と歎息する女もあった。夫人自
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