て、さまざまの悲しいことにあうと申す私の宿命が恥ずかしく、情けなくてなりません。二条の院の女王様から時々は逢いに出て来い、それきり来ようとしないのは私を愛していないのだろうなどとおっしゃってくださるおりもございますが、縁起の悪い姿になった私は、もう阿弥陀《あみだ》様以外にお逢い申したい方もございません」
 などと弁の尼は言った。大姫君の話も多く語った。親しく仕えて見聞きした話をし、いつどんな時にこうお言いになったとか、自然の風物に心の動いた時々に、故人の詠《よ》んだ歌などを、不似合いな語り手とは見えずに、声だけは慄《ふる》えていたが上手《じょうず》に伝え、おおようで言葉の少ない人であったが、そうした文学的なところもあったかと、薫はさらに故人をなつかしく思った。宮の夫人はそれに比べて少し派手《はで》な性質であって、心を許さない人には毅然《きぜん》とした態度もとる型の人らしくはあるが、自分へは同情が深く、どうして自分の恋から身をはずそう、事のない友情だけで永久に親しみたいと思うところがあると薫は二人の女王を比較して思ったりした。こんな話のついでにあの人型のことを薫は言い出してみた。
「京に
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