の死を悲しむばかりで、霊魂の慰めになることでもない無益な歎きをせぬために、この寝殿を壊《こぼ》ってお山のそばへ堂にして建てたく思うのです。同じくは速くそれに取りかからせたいと思っています」
とも言い、堂を幾つ建て、廊をどうするかということについて、それぞれ書き示しなど薫のするのを、阿闍梨は尊い考えつきであると並み並みならぬ賛意を表していた。
「昔の方が風雅な山荘として地を選定してお作りになった家を壊《こぼ》つことは無情なことのようでもありますが、その方御自身も仏教を唯一の信仰としておられて、すべてを仏へささげたく思召してもまた御遺族のことをお思いになって、そうした御遺言はしておかれなかったのかと解釈されます。今では兵部卿《ひょうぶきょう》親王の夫人の御所有とすべき家であってみれば、あの宮様の御財産の一つですから、このお邸《やしき》のままで寺にしては不都合でしょう。私としてもかってにそれはできない。それに地所もあまりに川へ接近していて、川のほうから見え過ぎる、ですから寝殿だけを壊《こぼ》って、ここへは新しい建物を代わりに作って差し上げたい私の考えです」
と薫が言うと、
「きわめて行き
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