宇治へ非常に行きたがっているようであったが、宮がお許しになるはずもない、そうかといって忍んでそれを行なわせることはあの人のためにも、自分のためにも世の非難を多く受けることになってよろしくない。どんなふうな計らいをすれば、世間体のよく、また自分の恋の遂げられることにもなるであろうと、そればかりを思って虚《うつろ》になった心で、物思わしそうに薫は家に寝ていた。
まだ明けきらぬころに中の君の所へ薫の手紙が届いた。例のように外見はきまじめに大きく封じた立文《たてぶみ》であった。
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いたづらに分けつる路《みち》の露しげみ昔おぼゆる秋の空かな
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冷ややかなおもてなしについて「ことわり知らぬつらさ」(身を知れば恨みぬものをなぞもかくことわり知らぬつらさなるらん)ばかりが申しようもなくつのるのです。
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こんな内容である。返事を出さないのもいぶかしいことに人が見るであろうからと、それもつらく思われて、
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承りました。非常に身体《からだ》の苦しい日ですから、お返事は差し上げられませぬ。
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