受け取らせになった。できるならば朗らかにしていま一人の妻のあることを認めさせてしまおうと思召して、手紙をおあけになると、それは継母《ままはは》の宮のお手になったものらしかったから、少し安心をあそばして、そのままそこへお置きになった。他の人の書いたものにもせよ、宮としてはお気のひけることであったに違いない。
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私などが出すぎたお返事をいたしますことは、失礼だと思いまして、書きますことを勧めるのですが、悩ましそうにばかりいたしておりますから、
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をみなへし萎《しを》れぞ見ゆる朝露のいかに置きける名残《なごり》なるらん
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貴女《きじょ》らしく美しく書かれてあった。
「恨みがましいことを言われるのも迷惑だ。ほんとうは私はまだ当分気楽にあなたとだけ暮らして行きたかったのだけれど」
などと宮は言っておいでになったが、一夫一婦であるのを原則とし正当とも見られている普通の人の間にあっては、良人《おっと》が新しい結婚をした場合に、その前からの妻をだれも憐《あわれ》むことになっているが、高い貴族をその道徳で縛ろうとはだれもしない。
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