にあなたのお言葉に信頼しようと思います」
と言い、もう忍びきれなかったのか今日は泣いた。今日までもこんなふうに思っているとはお見せすまいとして自身で紛らわしておさえてきた感情だったのであるが、いろいろと胸の中に重なってきて隠されぬことになり、こぼれ始めた涙はとめようもなく多く流れるのを、恥ずかしく苦しく思って、顔をすっかり向こうに向けているのを、しいて宮はこちらへお引き向けになって、
「二人がいっしょに暮らして、同じように愛しているのだと思っていたのに、あなたのほうにはまだ隔てがあったのですね。それでなければ昨夜《ゆうべ》のうちに心が変わったのですか」
こうお言いになり宮は御自身の袖《そで》で夫人の涙をおぬぐいになると、
「夜の間の心変わりということからあなたのお気持ちがよく察せられます」
中の君は言って微笑を見せた。
「ねえ、どうしたのですか、ねえ、なんという幼稚なことをあなたは言いだすのですか。けれどもあなたはほんとうは私へ隔てを持っていないから、心に浮かんだだけのことでもすぐ言ってみるのですね。だから安心だ。どんなにじょうずな言い方をしようとも私が別な妻を一人持ったことは事
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