いとさえ思うほどの無価値な自分ではないかと大姫君は聞いていて思うのであったが、好意を持ってくれる人に対して、思いやりのないように思われるのも苦しくて、まあ生きていてもよいという気になったという、こんな、優しい感情もある女王なのであった。
 次の朝になって、薫のほうから、
「少し御気分はおよろしいようですか。せめて昨日《きのう》ほどにでもしてお話がしたい」
 と、言ってやると、
「次第に悪くなっていくのでしょうか、今日はたいへん苦しゅうございます。それではこちらへ」
 という挨拶《あいさつ》があった。中納言は哀れにそれを聞いて、どんなふうに苦しいのであろうと思い、以前よりも親しみを見せられるのも悪くなっていく前兆ではあるまいかと胸騒ぎがし、近く寄って行きいろいろな話をした。
「今私は苦しくてお返辞ができません。少しよくなりましたらねえ」
 こうかすかな声で言う哀れな恋人が心苦しくて、薫は歎息《たんそく》をしていた。さすがにこうしてずっと今日もいることはできない人であったから、気がかりにしながらも帰京をしようとして、
「こういう所ではお病気の際などに不便でしかたがない。家を変えてみる療法に
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