た。そんなころにちょうど中納言が訪《たず》ねて来た。総角《あげまき》の姫君が病気になったと聞いて見舞いに来たのである。ちょっとしたことにもすぐ影響が現われてくるというほどの病体ではなかったが、姫君はそれに託して対談するのを断わった。
「おしらせを聞くとすぐに、驚いて遠い路《みち》を上がった私なのですから、ぜひ御病床の近くへお通しください」
 と言って、不安でこのままでは帰れぬふうを見せるために、女王の病室の御簾《みす》の前へ座が作られ、薫《かおる》はそこへ行った。困ったことであると姫君は苦しがっていたが、そう冷ややかなふうは見せるのでもなかった。頭を枕《まくら》から上げて返辞などをした。宮が御意志でもなくお寄りにならなかった紅葉《もみじ》の船の日のことを薫は言い、
「気永《きなが》に見ていてください。はらはらとお心をつかってお恨みしたりなさらないように」
 などと教えるようにも言う。
「私は格別愚痴をこぼしたりはいたしませんが、亡《な》くなられました宮様が、御教訓を残してお置きになりましたのは、こうしたこともあらせまい思召しかと思いまして、あの人がかわいそうでございます」
 それに続い
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