の中将が、

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いつぞやも花の盛りに一目見し木の下《もと》さへや秋はさびしき
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 八の宮に縁故の深い人であるからと思って薫にこう言った。その人、

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桜こそ思ひ知らすれ咲きにほふ花も紅葉《もみぢ》も常ならぬ世に
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 衛門督《えもんのかみ》、

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いづこより秋は行きけん山里の紅葉の蔭《かげ》は過ぎうきものを
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 中宮大夫、

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見し人もなき山里の岩がきに心長くも這《は》へる葛《くず》かな
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 だれよりも老人であるから泣いていた。八の宮がお若かったころのことを思い出しているのであろう。兵部卿《ひょうぶきょう》の宮が、

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秋はてて寂しさまさる木《こ》の本《もと》を吹きな過ぐしそ嶺《みね》の松風
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 とお歌いになって、ひどく悲しそうに涙ぐんでおいでになるのを見て、秘密を知っている人は、評判どおりに宮はその人を深く愛しておいでになるらしい、こんな機会にさえそ
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