々しく他人の妻になってしまうようなことはないと信じられる人であるからと、いつもゆとりのある心のこの人は、恋に心を焦《こが》しながらもそれをおさえることはできた。
「あなたの御意志はどこまでも尊重しますが、こうして物越しでお話ししていることの不満足感を救ってだけはください。先日のように近くへまいってお話をさせていただきたいのです」
と責めてみたが、
「このごろの私は平生よりも衰えていましてね、顔を御覧になって不愉快におなりになりはしないかと、どうしたのでしょう、そんなことの気になる心もあるのですよ」
と言い、ほのかに総角の姫君の笑った気配《けはい》などに怪しいほどの魅力のあるのを薫は感じた。
「そんなつきも離れもせぬお心に引きずられてまいって、私はしまいにどうなるのでしょう」
こんなことを言い、男は歎息をしがちに夜を明かした。
兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は、薫が今も一人臥《ひとりね》をするにすぎない宇治の夜とは想像もされないで、
「中納言が主人がたぶって、寝室に長くいるのが恨めしい」
とお言いになるのを、不思議な言葉のように中の君はお聞きしていた。
無理をしておいでになって
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