りになっていて介抱《かいほう》をされるのでは、癒《なお》ったあとの自分はその妻になるよりほかの道はない、そうかといって、今見る熱愛とのちの日の愛情とが変わり、自分も恨むことになり、煩悶《はんもん》が絶えなくなるのはいとわしい。もしこの病で死ぬことができなかった場合には、病身であることに託して尼になろう、そうしてこそ互いの愛は永久に保たれることになるのであるから、ぜひそうしなければならぬと姫君は深く思うようになって、死ぬにしても、生きるにしても出家のことはぜひ実行したいと考えるのであるが、そんな賢げに聞こえることは薫に言い出されなくて、中の君に、
「私の病気は癒るのでないような気がしますからね、仏のお弟子《でし》になることによって、命の助かる例もあると言いますから、あなたからそのことを阿闍梨に頼んでください」
 こう言ってみた。皆が泣いて、
「とんでもない仰せでございます。あんなに御心配をしていらっしゃいます中納言様がどれほど御落胆あそばすかしれません」
 だれもこんなことを言って、唯一の庇護者《ひごしゃ》である薫《かおる》にこの望みを取り次ごうとしないのを病女王は残念に思っていた。
 
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