そばにいてあたたかい手で育《はぐく》んでおいでになったのであるから、にわかにそうした意見をお言いだしになったのは、冷酷なのではないが、女王たちにとってうらめしく思われるのはもっともと見えた。
明日は寺へおはいりになろうとする日、平生のようでなくそちらこちら家の中を宮はながめまわっておいでになった。一時的に仮り住居《ずまい》となされたまま年月をお過ごしになった、あまりにも簡単な建物についても、自分の亡《な》くなったあとでこんな家に若い女王たちがなお辛抱《しんぼう》を続けて住んでいられるであろうかとお思いになり、宮は涙ぐみながら念誦《ねんず》をあそばされる御容姿にも、清楚《せいそ》な美があった。年をとった女房らをお呼び出しになって、
「私がどんな所にいても安心していられるように女王たちへ仕えてくれ。何事があっても初めから人目を惹《ひ》かぬ家であったなら、そこの娘がのちに堕落しようとも問題にする者もない。自分らの家では、それはしかしもう世間の人の眼中にはないであろうがね。ともかくもふがいない堕落をしていっては御先祖にすまないのだからね。貧しい簡素な生活よりできないのはほかにもあることだから
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