少ないふうに観じておいでになった八の宮の御事が始終心にかかって、忙しい時が過ぎたならまた宇治をお訪《たず》ねしようと薫は考えていた。兵部卿の宮も秋季のうちに紅葉見《もみじみ》として行きたいと思召してよい機会をうかがっておいでになった。お手紙はしばしば行く。女のほうでは真心からの恋とは認めていないのであるから、うるさがるふうは見せずに、微温的に扱った返事だけは時々出していた。
秋がふけてゆくにしたがって八の宮は健康でなくおなりになって、いつもおいでになる山の寺へ行って、念仏だけでも専念にしたいと思召しになり、女王たちにも現在の感想と、知りがたい明日についての注意などをお話しになるのであった。
「人生のそれが常で、皆死んで行かねばならないのだが、その際にも家族の上のことで、何か安心が見いだせれば、それを慰めにして悲しみに勝つこともできるものらしいが、私の場合は、このあとをだれが引き受けて行ってくれるという人もないあなたがたを残して行くのだから非常に悲しい。けれどもこんなことに妨げられて純一な信仰を得ることができなくなれば、すべてがだめなことになって、永久の闇《やみ》に迷っていなければなら
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