薫は心苦しいことであると同情された。
「表だちました責任者になりませんでも、私の力でお尽くしのできますことだけは私がいたしますから、御信用くだすっていいと存じております。しばらくでもあなた様よりあとに残って生きているといたしますれば、こうしたお言葉をいただきました以上、決してたがえることはいたしません」
薫がこう申し上げると、
「非常にうれしいことです」
と宮はお言いになった。
明け方のお勤めを仏前で宮のあそばされる間に、薫は先夜の老女に面会を求めた。これは姫君方のお世話役を宮がおさせておいでになる女で、弁の君という名であった。年は六十に少し足らぬほどであるが、優雅なふうのある女で、品よく昔の話をしだした。柏木《かしわぎ》が日夜|煩悶《はんもん》を続けた果てに病を得て、死に至ったことを言って非常に弁は泣いた。他人であっても同情の念の禁じられないことであろうと思われる昔話を、まして長年月の間、真実のことが知りたくて、自分が生まれてくるに至った初めを、仏を念じる時にも、まずこの真実を明らかに知らせたまえと祈った効験でか、こうして夢のように、偶然のめぐり合わせで肉身のことが聞かれたと思
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