者とは違ったすぐれた人格者だから、自分がいなくなったらと、こんなことをただ一言でも言っておけば遺族のために必ず尽くしてくれる心だと私は見ている」
などと宮はお言いになった。
宮から山寺の客に過ぎた見舞いの品々の贈られた好意を感謝するというお手紙をいただいたので、また宇治へ御訪問をしようと思った薫は、匂宮《におうみや》がああしたような、人に忘られた所にいる佳人を発見するのはおもしろいことであろう、予期以上に接近して心の惹《ひ》かれる恋がしてみたいと、そんな空想をしておいでになることを思い、宇治の女王《にょおう》たちの話を、やや誇張も加えてお告げすることによって、宮のお心を煽動してみようと思い、閑暇《ひま》な日の夕方に兵部卿《ひょうぶきょう》の宮をお訪《たず》ねしに行った。例のとおりにいろいろな話をしたあとで、薫は宇治の宮のことを語り出した。霧の夜明けに隙見《すきみ》したことをくわしく説明するのには宮も興味を覚えておいでになった。理想的な姫君だったと、薫はおおげさに技巧を用いて宇治の女王の美を語り続けるのであった。
「その女王のお返事を、なぜ私に見せてくれなかったのですか。私だったら親
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