大臣は几帳《きちょう》だけを隔てにして、尚侍と昔に変わらぬふうで語るのであった。
「用のない時にも伺わなければならないのを、失礼ばかりしています。年がいってしまいまして、御所へまいる以外の外出がもういっさいおっくうに思われるものですから、昔の話を伺いたい気持ちになります時も、そのままに済ませてしまうようになるのを遺憾に思います。若い息子たちは何の御用にでもお使いください。誠意を認めていただくようにするがいいと教えております」
「もうこの家などはだれの念頭にも置いていただけないものになっておりますのに、お忘れになりませんで御親切にお訪《たず》ねくださいましたのをうれしく存じますにつけましても、院の御厚志が私を今になっても幸福にしてくださるのだとかたじけなく思うのでございます」
 尚侍はこんなことを言ったついでに、冷泉院からあった仰せについて大臣へ相談をかけた。
「しかとした後援者を持ちませんものが、そうした所へ出てまいっては、かえって苦しみますばかりかとも思われますが」
「宮中からもお話があるということですが、どちらへおきめになっていいことでしょうね。院は御位《みくらい》をお去りになり
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