ちょう》なことのように人は非難したものだけれど、愛情が長く変わらず夫婦にまでなったのは、一面から見て感心な人たちと言っていい。だから世の中のことは何を最上の幸福の道とはきめて言えないのだね」
 などと玉鬘《たまかずら》夫人は言っていた。
 左大臣の息子の参議中将が隣に大饗《だいきょう》のあった翌日の夕方ごろにこの家へ訪《たず》ねて来た。院の女御が家に帰っていることでいっそう美しく見える身の作りもして来たのである。
「よい役人にしていただきましたことなどは何とも思われません。心に願ったことのかなわない悲しみは月がたてばたつほど積っていってどうしようもありません」
 と言いながら涙をぬぐう様子でややわざとらしい。二十七、八で、盛りの美貌《びぼう》を持つはなやかな人である。
 帰ったあとで、
「困った公達《きんだち》だね。何でも思いのままになるものと見ていて、官位の問題などは念頭に置いていないようだね。こちらの大臣がお薨《かく》れにならなければ、ここの若い人たちもあの人ら並みに、恋愛の遊戯を夢中になってしただろうにね」
 と言って、玉鬘夫人は歎息《たんそく》をしていた。右兵衛督《うひょうえの
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