た世間の噂《うわさ》と院の御所の空気に苦労ばかりがされて、
「かわいそうな女御さんほどに苦しまないでも幸福をやすやすと得ている人は世間に多いのだろうがね。条件のそろった幸運に恵まれている人でなければ宮仕えを考えてはならないことだよ」
と歎息《たんそく》していた。以前の求婚者で、順当に出世ができ、婿君であっても恥ずかしく思われない人が幾人もあった。その中でも源侍従と言われた最も若かった公子は参議中将になっていて、今では「匂《にお》いの人」「薫《かお》る人」と世間で騒ぐ一人になっていた。重々しく落ち着いた人格で、尊い親王がた、大臣家から令嬢との縁談を申し込まれても承知しないという取り沙汰《ざた》を聞いても、
「以前はまだたよりない若い方だったが、りっぱになってゆかれるらしい」
玉鬘《たまかずら》夫人は寂しそうに言っていた。
蔵人《くろうど》の少将だった人も三位の中将とか言われて、もう相当な勢いを持っていた。
「あの方は風采《ふうさい》だっておよろしかったではありませんか」
などと言って、少し蓮葉《はすは》な性質の女房らは、
「今のうるさい御境遇よりはそのほうがよかったのですね」
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