君がお聞きになりましたら、いっそうけしからん考えを持っておいでになるとお思いになって、御同情が減るでしょう。私のお気の毒に思っておりました気持ちも、もうなくなりましたよ。むちゃなことばかりお言いになるから」
 正面から中将が攻撃すると、
「そんなことはかまわない。人は死ぬ時になると何もこわいものはなくなりますよ。それにしても碁の勝負にお負けになったのは気の毒だった。私を寛大にお扱いくだすって、あの時目くばせをしてそばへ呼んでくだすったら、よい助言ができたのに、勝たせてあげたのに」
 などと言って、また、

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いでやなぞ数ならぬ身にかなはぬは人に負けじの心なりけり
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 とも歌った。中将の君が笑いながら、

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わりなしや強きによらん勝ち負けを心一つにいかが任する
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 と言う態度までも、冷淡に思われる少将であった。

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哀れとて手を許せかし生き死にを君に任するわが身とならば
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 冗談《じょうだん》を混ぜては笑いもし、また泣きもして少将は夜通し中将の君
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