なる院のお気持ちが、夫人には心苦しくて、この命がいよいよ終わった時にはどれほどお悲しみになるであろうと思うと物哀れになって、
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おくと見るほどぞはかなきともすれば風に乱るる萩《はぎ》の上露
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と言った。そのとおりに折れ返った萩の枝にとどまっているべくもない露にその命を比べたのであったし、時もまた秋風の立っている悲しい夕べであったから、
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ややもせば消えを争ふ露の世に後《おく》れ先きだつ程《ほど》へずもがな
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とお言いになる院は、涙をお隠しになる余裕もないふうでおありになった。宮は、
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秋風にしばし留まらぬ露の世をたれか草葉の上とのみ見ん
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とお告げになるのであった。美貌《びぼう》の二女性が最も親しい家族として一堂に会することが快心のことであるにつけても、こうして千年を過ごす方法はないかと院はお思われになるのであったが、命は何の力でもとどめがたいものであるのは悲しい事実である。
「もうあちらへおいでなさいね。私は気分が悪くなってまいり
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