でございます。あの方のためにも、あなた様のためにも、これは世間が騒ぐはずのことですから、どんなに堪えがたい誹謗《ひぼう》の声を忍ばなければならぬかしれませんが、しかしそれはしいて忘れることにいたしましても、あの人の愛情さえ深ければながい月日のうちには見よいことにもなろうかと、私はしいて思おうとするのですが、まったく冷淡な人でございますね」
と言い続けて御息所は泣くのであった。あった事実と独断してこう言うのを、御弁明あそばすこともおできにならない宮が、ただ泣いておいでになる御様子は、おおようで可憐《かれん》なものであった。御息所はじっと宮をながめながら、
「あなたはどこが人より悪いのでしょう。そんなことは絶対にない。何という運命でこうした御不幸な目にばかりおあいになるのだろう」
などと言っているうちに御息所の容体は最悪なものになっていった。物怪《もののけ》などというものもこうした弱り目に暴虐をするものであるから、御息所の呼吸はにわかにとまって、身体《からだ》は冷え入るばかりになった。律師もあわてて願《がん》などを立て、祈祷《きとう》に大声を放っているのである。御仏《みほとけ》に約して
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