様が御出家をあそばすこの世というものから私も離れてしまいたい望みを持っておりますことにつきましても、御相談が申し上げたくてそしてそれができないのでございますわ。昔からどんなことにもお力になっていただきつけて、独立心がなくなっているのでございましょうね。御意見を伺わないでは何もできません私は」
 と言っておいでになった。
「そうですね。宮中にいらっしゃるころは年に幾度かの御実家帰りを楽しんでお待ち受けすることができたのですがね。ただ今では形式どおりのお暇をお取りになって御実家住まいをなさることのおできにならなくなりましたのもごもっともです。もうお上《かみ》とお后《きさき》と申すより一家の御夫婦のようなものですからね。ただ今のお話ですが、さして厭世《えんせい》的になる理由のない人が断然この世の中を捨てることは至難なことでしょう。われわれでさえやはりいよいよといえば絆《ほだし》になることが多いのですからね。人|真似《まね》の御道心はかえって誤解を招くことになりますから、断じてそれはいけません」
 と院がおとめになるのを、宮は深く自分の心が汲《く》んでもらえないからであろうと恨めしく思召した。
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