、いよいよ御自身の運命の悲しさにお泣きになるのであった。
三月になると空もうららかな日が続き、六条院の若君の五十日《いか》の祝い日も来た。色が白くて、美しいかわいい子でもう声を出して笑ったりするのであった。院がおいでになって、
「もうさっぱりした気分になりましたか。でも御|恢復《かいふく》になったかいもありませんね。今までのあなたでこうして快《よ》くおなりになったのを見ることができたらどんなにうれしいだろう。あなたは冷酷に私を捨てておしまいになりましたね」
と涙ぐんで恨みをお言いになった。毎日こちらの御殿へおいでにならぬ日はなくなって、こうした今になって最上のお扱いをあそばされるのであった。五十日の儀式に母君が尼姿でおいでになるのは、若君の将来を祝うことに不都合ではないかという意見をもつ女房たちもあって、どうしようかと言われているところへ院がおいでになって、
「少しもさしつかえない。若君が女であれば母君の運命にあやかってはならないとも考慮すべきだが」
とお言いになり、南向きの座敷に若君の小さい席を設けて祝い膳《ぜん》が供えられた。新しい乳母《めのと》たちは皆はなやかな服装をしてい
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