て、お膳部から女房たちのためのお料理の盛られた器まで皆きれいな感じのする式場であった。真相を知らぬ人々の寄贈したおびただしい祝品のあるのを御覧になっても、この誤りを正しくしがたい心苦しさから恥ずかしくばかりおなりになる院であった。尼宮も起きておいでになった。切りそろえられた髪の尖《さき》が厚くいっぱいに拡《ひろ》がるのを苦しくお思いになり、額の毛などを後ろへなでつけておいでになる時に、院は几帳《きちょう》を横へ寄せてそこへおすわりになると、宮は羞《は》じて横のほうへお向きになったが、以前よりもいっそう小柄にお見えになって、髪は授戒の日にお扱いした僧が惜しんで長く残すようにして切ったのであるから、ちょっと見ては普通の方のように思われた。次々に濃くした鈍《にび》の幾枚かをお重ねになった下には黄味を含んだ淡《うす》色の単衣《ひとえ》をお着になって、まだ尼姿になりきってはお見えにならず、美しい子供のような気がしてこれが最もよくお似合いになる姿であるとも艶《えん》に見えた。
「墨染めという色は少し困りますね。どうしても悲しい色でね、目がくらむ気がします。こうおなりになってもいっしょに暮らすことができるのだからと思って、みずから慰めようとしていますが、まだ今でも涙だけはあきらめてくれずに流れ出すので困りますよ。こんなふうにあなたに捨てられたのも、私自身の罪であると考えられることも苦痛のきわみですよ。取り返せないものだろうか」
と院は御|歎息《たんそく》をあそばして、
「ほんとうの尼の気持ちになっておしまいになれば、それは病気のためでなく、私がいやにおなりになったためにそうおなりになった気もして、私は情けないでしょうよ。やはり私を愛してください」
こうお言いになると、
「この境地にいては人を愛したりすることができないものだと聞いていますもの、まして私などは初めから愛するということがわからなかったのですから、どうお返事を申し上げればいいか存じません」
と宮はお返辞をあそばされる。
「しかたのない方ですね、おわかりになることもあるでしょうが」
と言いさしたまま院は言葉をお切りになって、若君を見ようとあそばされた。乳母《めのと》には貴族の出の人ばかりが何人も選ばれて付いていた。その人たちを呼び出して、若君の取り扱いについての注意をお与えに院はなるのであった。
「かわいそうに未来
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