の方にはおりおりお目にかかっていますが、聡明《そうめい》で聡明で御自身の感情を少しもお見せにならないのに比べて、だれにも友情を押しつける私をあの方はどう御覧になっていらっしゃるかときまりが悪くてね。しかしとにもかくにも女御は私をいいようにだけ解釈してくださるだろうと思っています」
夫人にとってはねたましく思われた人であった明石《あかし》夫人をさえこんなに寛大な心で見るようになったのも、女御を愛する心の深いからであろうと院はうれしく思召《おぼしめ》した。
「あなたは恨む心もある人だが思いやりもあるから私をそう困らせませんね。たくさんな女の中であなたの真似《まね》のできる人はない。あまりにりっぱ過ぎるわけですね」
微笑して院はこうお言いになる。
夕方になってから、
「宮がよくお弾《ひ》きになったお祝いを言ってあげよう」
と言って、院は寝殿へお出かけになった。自分があるために苦しんでいる人がほかにあることなどは念頭になくて、お若々しく宮は琴の稽古《けいこ》を夢中になってしておいでになった。
「もう琴は休ませておやりなさい。それに先生をよく歓待なさらなければならないでしょう。苦しい骨折
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