れば私としては過分な身の上になっているのですが、心には悲しみばかりがふえてまいります。それを少なくしていただきたいと神仏にはただそれを私は祈っているのですよ」
 言いたいことをおさえてこれだけを言った女王に貴女らしい美しさが見えた。
「ほんとうは私はもう長く生きていられない気がしているのでございますよ。この厄年《やくどし》までもまだ知らない顔でこのままでいますことは悪いことと知っています。以前からお願いしていることですから、許していただけましたら尼になります」
 とも夫人は言った。
「それはもってのほかのことですよ。あなたが尼になってしまったあとの私の人生はどんなにつまらないものになるだろう。平凡に暮らしてはいるようなものの、あなたと睦《むつ》まじくして生きているということよりよいことはないと私は信じているのです。あなただけをどんなに私が愛しているかということを、これからの長い時間に見ようと思ってください」
 院がこうお言いになるのを、またもいつもの慰め言葉で自分の信仰にはいる道をおはばみになると聞いて、夫人の涙ぐんでいるのを院は憐《あわ》れにお思いになって、いろいろな話をし出して紛ら
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