ものと比較したらどうでしょうかしら」
 などと夫人が言っている時に、宮のお返事が来た。紅《あか》い薄様《うすよう》に包まれたお文《ふみ》が目にたつので院ははっとお思いになった。幼稚な宮の手跡は当分女王に隠しておきたい。この人に隔て心はないがさげすむ思いをさせることがあっては宮の身分に対して済まないと院はお思いになるのであるが、隠しておしまいになることも夫人の不快がることであろうからと、半分は見せてもよいというようにお拡《ひろ》げになった文《ふみ》を、女王は横目に見ながら横たわっていた。

[#ここから2字下げ]
はかなくて上《うは》の空にぞ消えぬべき風に漂ふ春のあは雪
[#ここで字下げ終わり]

 文字は実際幼稚なふうであった。十五にもおなりになればこんなものではないはずであるがと目にとまらぬことでもなかったが、見ぬふりをしてしまった。他の女性のことであれば批評的な言葉も院は口にせられたであろうが御身分に敬意をお払いになって、
「あなたは安心していてよいとお思いなさいよ」
 とだけ夫人に言っておいでになった。
 今日は昼間に宮のほうへおいでになった。特にきれいに化粧をお施しになった院の
前へ 次へ
全131ページ中55ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング