につたふれば玉の小櫛《をぐし》ぞ神さびにける
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これを御覧になった院は身にしむ思いをあそばされたはずである。縁起が悪くもないであろうと姫宮へお譲りになった髪の具は珍重すべきものであると思召されて、青春の日の御思い出にはお触れにならず、お悦《よろこ》びの意味だけをお返事にあそばされて、
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さしつぎに見るものにもが万代《よろづよ》をつげの小櫛も神さぶるまで
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とお書きになった。
御病気は決して御軽快になっていなかったのを、無理あそばして御挙行になった姫宮のお裳着の式から三日目に院は御髪《みぐし》をお下《お》ろしになったのであった。普通の家でも主人がいよいよ出家をするという時の家族の悲しみは大きなものであるのに、院の御ためには悲しみ歎《なげ》く多くの後宮の人があった。尚侍はじっとおそばを離れずに歎《なげ》きに沈んでいるのを、院はなだめかねておいでになった。
「子に対する愛は限度のあるものだが、あなたのこんなに悲しむのを見ては私はもう堪えられなく苦しい心になる」
と仰せになって、御心《みこころ》は冷静でありえな
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