の幸福でないと私が思いまして、はじめて女王様にあなたをお譲り申し上げました時には、これほどまでの愛をあなたにお持ちになることは想像できませんで、それ以後もただ世間並みのよいといわれる継母《ままはは》ぐらいのことと思いましたが、あの方の御愛情はそんなものではありませんでした。あの方にお任せいたしますほど安心なことはないとよく私はわかったのでございます」
 などと明石は淑景舎《しげいしゃ》に言った。姫君は涙ぐんで聞いていた。実母に対しても打ち解けたふうができず、おとなしくものの多く言われない姫君なのである。入道の手紙は若い心に無気味なこわい気のされるようなことが、古檀紙の分厚い黄色がかった、それでも薫物《たきもの》の香の染《し》んだのへ五、六枚に書かれてあるのを、姫君は身にしむふうで読んでいて額髪が涙にぬれていく様子が艶《えん》であった。
 院は女三《にょさん》の宮《みや》のお座敷のほうにおいでになったのであるが、中の戸をあけてにわかにこちらへお見えになったのを知って、明石夫人は急なことで姫君の前に出された文書類を隠すことができず、几帳《きちょう》を少し前のほうへ引き寄せ、自身もその蔭《か
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