になるようなことになっては悲しゅうございますね」
 とも言い、夜通し尼君と入道の話をしていた。
「昨日は私のあちらにいますのを院が見ていらっしゃったのですから、にわかに消えたようにこちらへ来ていましては、軽率に思召《おぼしめ》すでしょう。私自身のためにはどうでもよろしゅうございますが、姫君に累を及ぼすのがおかわいそうで自由な行動ができませんから」
 こう言って夫人は夜明けに南の町へ行くのであった。
「若宮はいかがでいらっしゃいますか。お目にかかることはできないものですかね」
 このことでも尼君は泣いた。
「そのうち拝見ができますよ。姫君もあなたを愛しておいでになって、時々あなたのことをお話しになりますよ。院もよく何かの時に、自分らの希望が実現されていくものなら、そんなことを不安に思っては済まないが、なるべくは尼君を生きさせておいてみせたいと仰せになりますよ。御希望とはどんなことでしょう」
 と夫人が言うと、尼君は急に笑顔《えがお》になって、
「だから私達の運命というものは常識で考えられない珍しいものなのですよ」
 とよろこぶ。手紙の箱を女房に持たせて明石は淑景舎《しげいしゃ》の方《かた
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