必ずしもそうではなかったのだ。今は中宮をお援《たす》けしていることで、聡明《そうめい》な人だったから、あの世ででも私の誠意を認めておいでになることだろう。中宮のお字はきれいなようだけれど才気が少ない」
 と源氏は夫人にささやいていた。
「入道の中宮様は最上の貴婦人らしい品のある字をお書きになったが、弱い所があって、はなやかな気分はない。院の尚侍《ないしのかみ》は現代の最もすぐれた書き手だが、奔放すぎて癖が出てくる。しかし、ともかくも院の尚侍と前斎院と、あなたをこの草紙の書き手に擬していますよ」
 源氏から認められたことで、夫人は、
「そんな方たちといっしょになすっては恥ずかしくてなりませんよ」
 と言っていた。
「謙遜《けんそん》をしすぎますよ。柔らかな調子のとてもいい所がある。漢字は上手《じょうず》に書けますが、仮名には時々力の抜けた字の混じる欠点はありますね」
 などとも源氏は言っていて、書かない無地の草紙もまた何帳か新しく綴《と》じさせた。表紙や紐《ひも》などを細かく精選したことは言うまでもない。
「兵部卿《ひょうぶきょう》の宮とか左衛門督《さえもんのかみ》とかにもお頼みしよう。
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